美容師が独立し、開業する事。さらには美容室経営で成功していくのは今後厳しいのでしょうか?人口は減少。美容師の数も減少、その中で美容室の総数はまだ増加傾向。このようなデータがあります。今回の記事では、この環境下で失敗する要因は何か。できる対策は何があるのか。独自の視点で解説していきます。
美容室経営が失敗する4つの理由
利益構造の変化
一つ目の理由は利益構造の変化です。最近は、同じビジネスモデルでも利益を出しにくくなっています。具体的には、人件費の増加が顕著です。
私が美容師になった頃は、平均給与が15万円を超えると驚かれる時代でしたが、現在は新卒美容師の提示給与が20万円を超えるのが一般的で、さらに高い給与を提示する美容室も存在します。労働時間も法定範囲内に収まり、適正化されてきています。
ざっくり言うと、昔と比べて労働時間は約3分の2になり、給与は1.5倍に増えています。つまり、1時間あたりの人件費は約2倍になっていると考えられます。
次に、広告費の増加があります。ホットペッパーなどの広告が浸透していなかった時代から、今では上位プランを使うと広告費が50万円から70万円もかかるようになりました。さらに、インスタグラムなどのSNS広告も必要になり、さらに集客だけでなく、スタッフ募集のための広告費も発生しています。前は求人サイト等使わずに採用活動できていたのが今では必須。求人難な状況も合わさり、一人を採用するのに50万〜90万もかかる。結果としてスタッフを集めるための費用も大幅に増加しています。
加えて、電気代、水道代、ガス代の上昇、材料費の値上げも続いています。これらの要因から、昔と同じ売上があっても、どう計算しても残る利益は大きく減少しています。
この利益構造の変化を認識せずに昔の感覚で経営を続けると、美容室経営は厳しくなるという点が指摘されています。
「お客様」視点への偏り
二つ目の理由は、お客様視点への偏りです。多くの美容室が潰れたり閉店、廃業する大きな理由は、お店を利用してくださるお客様が来ない。ではなく、スタッフが集まらないことにあります。多くの場合がこの状況だと考えられます。
もちろん、お客様に喜んでもらうことを考えるのは美容師としての基本であり、必要な要素です。しかし、お客様だけを考えて経営をしていると失敗するリスクがあります。
美容室経営のポイントは、スタッフをいかに集めるか、どのようにして集まったスタッフに長く働いてもらうかにあるのは明らかで、お客様のメリットだけでなく、スタッフに対しても同じように配慮し、働きやすい環境づくりに力を入れることが重要です。このお客様視点とスタッフ視点のバランスが経営成功の鍵となります。
オーナーの属性と方向性の相違
三つ目の理由は、オーナー自身の属性能力とその適正と特徴、および願望とのズレが大きな失敗要因になります。
オーナー自身が何をしたいのか、人生軸での目的はどこにあるのか。自身の願望や能力の適性が明確でない場合や途中で見失って、経営方向性のズレが生じる可能性があります。
例えば、オーナーが技術にこだわりを持ち、スタッフとの密なコミュニケーションやスタッフの成長を重視するタイプの場合、仕組み化、マニュアル化、多店舗展開といったシステム的な要素を重視した経営スタイルに進んでしまうといった、異なる方向性を強いられると、本来大切にしたい価値を失い、自分自身を見失うケースがあります。
現代は情報が錯乱しており、成功モデルや様々なやり方事例があふれています。これらの情報を見てしまうと、自社にも導入しなくては!行動に移さなければならない!と感じてしまい、自分の本質を見失って、不本意な方向に進んでしまうことがあります。後になって振り返るとなぜ自分はこんな判断をしたのかと。後悔する事も少なくありません。
結局のところ、情報に流されず、自分が本当に大事なものは何か。を明確にして経営をすることが、自分の願望や能力を最大化させることになり失敗を避ける一番の方法なのです。
組織編成の問題
四つ目の理由は、組織編成の問題です。店舗数が増えると、組織は縦にも横にも拡大し、その構造が複雑化します。最初はオーナーとスタッフだけの二段階構造かもしれませんが、店舗が増えるにつれて、店長、副店長、マネージャー、エリアマネージャーなど、階層が増えていきます。
この組織の階層化は、変化の速い現代においてデメリットとな部分が大きく、ネックになる可能性があります。今までにないスピード時代が変化する中、速い意思決定と迅速な適用、変化の実施が求められる中で、従来のピラミッド型の多階層組織では対応が難しくなります。変化に対応しにくい組織は、今後の時代に適応できなくなる恐れがあるため、組織編成を見直し、より柔軟で迅速な意思決定ができる体制を整え運営していく必要があります。
美容師が独立して成功するためのポイントは?
自分の能力の適正と属性は?
自分の能力と属性の適正を定期的に振り返ることは重要です。何に喜びを感じ、どのような環境で活躍できるのかを理解することは、経営者としての方向性を定める上で不可欠です。
組織が成長するにつれて、創業から支えてくれた人材を変えなければならない状況が訪れるかもしれません。その時、適正な人材を配置できるかどうかが、組織の未来を左右します。
この決断は正解性なのか不正解なのかは視点により異なります。事業の拡大が自分の人生軸において正義なのか、一緒にやってきた仲間と過ごす時間が優先されるのか。この感覚が「器の形」であり、見失ってはならないポイントです。
経営者として、大規模な店舗展開が自分の適性に合っているのか、それとも少数精鋭で密な関係を築きながら働くことが自分の幸せなのかを判断する必要があります。
情報が錯綜する中で自分自身を見失わないよう、定期的に自己反省を行い、適切な経営方針を模索することが大切です。そして、それに基づいてスタッフを集め、環境を整える方向性を決めていくべきです。
スタッフを集めるためには
美容師が独立して成功するために、また経営を続けていくためには、お客様市場に向けたマーケティングだけでなく、スタッフを集めることに焦点を当てる必要があります。スタッフを集めるためには、相場に対してトップレベルの給与を設定することが基本的要素です。
しかし現状、そこまでの人件費を割けないモデルになっている場合もあります。その原因は何かを追求し、これを実現するためには、利益構造をしっかり理解し、財務知識を持つことが必要であり、PL表を理解しなてはいけません。
正しく自社の数字を分析し、どのように経費を配分するかを決めるのは経営者の重要な役割です。
スタッフが長く働ける環境を整えるためには、投資すべき場所はどこか?正確に見極める必要があります。お客様に重点を置くことは重要ですが、出店場所や広告の戦略を決める際にもスタッフの視点を考慮する必要があります。
例えば、ホットペッパーでの白髪染めの広告で新規集客に成功しても、そのサロンが若いスタッフをターゲットにしている場合、明らかな属性のズレが生じます。そのため、ターゲット設定やサービス内容。メニュー展開、内装、単価。全ての要素を集客だけでなく、スタッフがその職場で働きたいと思える環境は?という言う視点での経営判断が、戦略の重要な部分となります。
今後美容師に人気の出るお店作りとは?
条件では人は集まらない
今後人気の集まるお店の環境は、単にお金や時間等の条件だけでは人を集めることができないという点から始まります。
お給料についても、通常の美容室のビジネスモデルでは、出せる金額に限界があります。業界の利益構造を考えると、粗利益の60%程度が上限となることが多いです。給与を上げることにも限界があり、労働時間を適正に保つ以上の改善は難しい状況です。社会保険を完備しても、それ以上の条件を提供するのは難しいため、条件面だけでは差別化が難しく効果はないと言えます。
そのため、条件面を充実させた上で、何を提供できるかが重要な争点になります。給与や労働条件だけでなく、職場の文化、成長の機会、働きがいなど、他の要素を強化し、魅力的な環境を提供することが、人を惹きつけるお店の環境を作る鍵になるでしょう。
スタッフ個人のプロデュースとサポート
スタッフの個人をどのようにプロデュースし、組織としてどうサポートするかも重要なポイントになると考えられます。自己実現を目指すスタッフを、組織の力でどのようにバックアップし、サポートできる施策をとる事を強くおすすめします。
例えば、個人の広告運用を組織がサポートすること、InstagramなどのSNSでの投稿を組織のノウハウを活用して構成する手助けをすること、広告費の投下などが考えられます。
さらに、スタッフがセミナーやサロンワーク以外のビジネス活動を希望する場合、その活動を支援するために企業が積極的に関わることも重要です。会社のリソースを使って新しい仕事を取り込む、美容業界で知名度を上げるための支援をするなど、スタッフ個々のキャリアをいかに組織としてバックアップしていくか。会社に属し雇用されているからてるからこそできる経験をいかに増やしていく。このような取り組みや制度を保つ事も必要になります。
企業としての生き様と文化
企業としての生き様や文化が、今後の争点になります。スタッフのプロデュース方法も、企業文化と深く関連しています。トップが持つビジョンや目指す成果が、企業文化を形成し、そこに共感するスタッフが集まり、活躍することで、その文化はさらに発展していきます。
求人においては、数値で示せる条件面だけでなく、企業としての生き様や文化をどう伝えていくかが重要になります。これらは求人媒体に直接表れるものではないため、自社独自のコンテンツを準備して、企業の真の価値を知ってもらえる手段をもつことも、他社との差別化を図る上で重要になると考えられます。
条件だけではなく、企業の持つ独自の文化や生き様を通じて、スタッフに魅力を感じてもらい、共感してもらうことが、人材獲得の鍵となるのは明確です。
開業してオーナーとして成功するには?
トップの役割とは
トップになるということは、企業の指導者として何をすべきかを深く考える必要があります。社長の役割は多岐にわたり、ビジョンの伝達、売上の向上、仕事の獲得、人材の獲得などが挙げられます。
しかし、それらを越える重要な視点として、トップは「会社に今足りないものを全て補う人」であるべきだとされます。これは、社内で直面している課題を解決するために、必要な人材や資金が不足している場合に、自分自身がそのギャップを埋めることを意味します。足りない業務は全てやる。という事です。
この認識を持つことで、トップとしての責任感や使命感が高まり、組織全体を適切に導くことができます。つまり、トップは組織の現状を正確に把握し、現状リソースが足りていないが、必要な対策を自らの手で実行に移すことが求められるのです。このような姿勢が、組織全体の価値と行動を向上させることに影響してきます。
成功への近道必殺技はない
成功への近道は存在しないということが、もう一つの重要なポイントです。私自身、起業してからやく7年にわたり必殺技や特効薬を探し続けるものの、結局は存在しないことに気づきました。
成功への道は、やるべきことを高いレベルで継続的に実行することに尽きます。近道を探すよりも、地道にコツコツと取り組むことの重要性が際立っています。
要するに、経営も含めてどの分野でも、短期的な成功への道はなく、長期的な視点で地道な努力を積み重ねることが、真の成功につながるという認識が大切です。全てをまとめると、この地道な取り組みこそが、成功へのキーとなるということになります。
まとめ
今の現状、今後の流れを考えても美容室経営は厳しい状況であり、経営難に陥り倒産するといった事も少なくないのは明らかです。
しかし、美容室という業態はおそらくなくならない。必ず生き残る企業はある。
そう考えると、適切に状況を捉え、時代に合った本質的な展開をしていけば競争に巻き込まれず繁栄する企業をつくる事は不可能ではありません。今日紹介した内容が皆様の参考になれば幸いです。
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